【12/18】『かがみの孤城』辻村深月

電車の車内広告で紹介されているのを見て、そういえば2017年中に読んだ本で一番のヒットだったなと思い出したので。

かがみの孤城

かがみの孤城

あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。(Amazonの内容紹介より)


不登校の主人公とそれに似た環境を持つ子どもたちが、鏡を抜けた先にあるお城の中で「鍵」を探す。
「鍵」を見つけた一人はなんでも好きな願いを叶えてもらえる。
イムリミットは3月31日まで。それまでに見つけられなければ、全員の記憶からお城での出来事が消されてしまう。

「何らかの理由で学校に行けない子どもたち」というリアルさと「鏡の向こうにある城での生活」というファンタジー要素が絶妙に混ざり合い、どこか冷たくて重苦しい調子で物語は進んでいきます。
この描き方は辻村さんの作品によく見られるもので、彼女の言うSF(すこし・ふしぎ)な感じです。

中学生にとっての学校は自身の世界のほとんどを占める場所で、そこに馴染めないのはまさに世界から爪弾きにされたようで絶望的だと思います。
「環境に適応できない」ことにおいては、社会人のほうがよっぽど逃げ場があるんですね。休職なり転職なり引越しなり。
私自身、ちょうどこの本を読み始めたのが諸事情で休職した直後だったので、逃げ道が用意されていることのありがたさを感じました。
主人公が「平日の昼間に家にいること」について罪悪感で苦しむシーンで共感しすぎてうんうん頷いてしまいました。世間の人々が学校やら会社やらに行っている時間を一人きりで過ごすのは、想像していた以上に苦痛なものなのです……。

仕掛けられたトリックは種明かしの前になんとなくわかってしまうのですが、終盤に向けて二重三重に伏線が回収されていきクライマックスに突入する様は圧巻です。主要な登場人物としては一見多すぎる7人の子どもたちも、ひとりひとりがしっかりと役割を持ち物語のキーになります。
ミステリー的な謎解きよりも、丁寧なキャラクター描写や思春期の揺れ動く気持ちの表現がこの小説の魅力です。同著者の他作品のようなどんでん返しのような驚きはありませんが、読み終わったあとに「素敵なお話を読んだなぁ」と温かい気持ちが残りました。

そしてこの『かがみの孤城』、装丁がとても素敵なんです。タイトルの部分がホログラムの箔押しになっていて、少し厚みのある本なので存在感があります。『はてしない物語』のハードカバー版を手に取ったときと同じ気持ちです。
生きていることが苦しい、なんとなく生きづらさを感じている、そんな人に読んでほしいと思います。